労働審判FAQ

労働審判手続で調停をまとめる場合、解決金額はどのように決定しますか?

 労働審判事件で調停をまとめる場合、解決金額は、当事者の権利義務関係を踏まえて決定されるべきものであり、自己の主張を譲らなければ自己に有利な金額になるというものではありませんが、事案の解決のため必要な調整がなされた上で決定されます。
 会社側に資力がないことから、分割払いでの支払を要求した場合、一括で解決金を支払う場合と比較して、解決金の額が高くなる傾向にあります。もっとも、会社が近日中にも倒産しそうな場合であれば、解決金を早急に確実に回収したいと考えた労働者側が低めの金額の解決金とすることに同意する場合もあります。
 残業代等と合わせて付加金の請求を受けている場合であっても、解決金額の決定にあたっては、付加金額を考慮する必要はありません。なぜなら、付加金は未払残業代等があるというだけで支払義務が発生するものではなく、付加金の支払を命じる判決が確定して初めて支払義務が発生するものだからです。労働審判で調停が試みられている時点で、付加金の支払を命じる確定判決が存在することはありません。付加金の支払を命じる確定判決が未だ存在しないのであれば、付加金の支払義務はないわけですから、解決金の金額を決めるに当たって付加金を持ち出すのは、権利義務関係を踏まえない議論と言わざるを得ず、労働審判手続に相応しくないといえます。解決金額を決定するに当たって、あたかも移行後の訴訟で判決に至った場合に付加金の支払を命じられる可能性があることが解決金の額に影響するかのようなことを話す労働審判官、労働審判員、弁護士もいますが、法的根拠はありませんので、惑わされないようにして下さい。なお、調停が不成立に終わった場合の労働審判で付加金の支払を命じることはできません。訴訟に移行した時点で未払残業代等が存在したとしても、事実審の口頭弁論終結時までに未払残業代等を全額支払ってその旨主張立証すれば、判決で付加金の支払を命じられることもありません。
 労働者側の主張が認められず、全面的に請求棄却となる見込みの場合であっても、一定額の解決金を支払う内容の調停を成立させて労働審判事件を解決することがあります。調停が成立せず、請求を全面的に棄却する内容の労働審判がなされた場合、労働審判に対し労働者から異議が出される可能性が高く、労働審判に対し異議が出されて訴訟に移行すれば、さらに時間的、金銭的、労力的コストがかかります。労働者の請求を全面的に棄却する労働審判を勝ち取るよりも、低めの解決金額で調停をまとめた方が、コストが低くなることが多い印象です。