労働審判手続では、調停成立による解決の見込みがある場合にはこれを試みることと定められており、全体の約70%の労働審判事件が調停成立により終了しています。
調停が成立するためには、申立人・相手方双方が調停内容について合意しなければなりません。申立人・相手方のどちらか一方でも調停内容に同意しない場合、調停は成立しません。
実際の労働審判手続では、第1回労働審判期日で一通りの証拠調べを終え、即日、調停を試みられることが多いです。当事者双方が労働審判委員会から調停内容に関する意見を求められ、労働審判委員会が調停成立の見込みがあると判断した場合は、労働審判委員会から調停案が提示され、調停を成立させるか否かを判断することになります。
申立人・相手方双方の意見を聴かずに、労働審判委員会がいきなり調停案を示すことは多くありません。会社の利益をしっかり擁護しつつ折り合いをつけて労使紛争を解決するためには、どのような内容で調停をまとめるのかを労働審判委員会に丸投げするのではなく、会社の考えを事前に検討しておくべきと考えます。
調停条項の内容としては、会社に解決金の支払義務があること、解決金を一定期限までに振り込んで支払うこと、労働者が調停条項に定めるもの以外の請求を放棄すること、調停条項に定めるもののほか債権債務関係がないこと、手続費用は各自の負担とすることなどが盛り込まれるのが通常です。調停内容や交渉の経緯等を公にしたくない場合は、調停内容等を正当な理由なく口外しないことを相互に約束する旨の守秘義務条項を入れてもらうといいでしょう。解雇、雇止め、合意退職等が有効になされているかが争点となっている労働審判事件の場合は、解雇日等の一定の日に退職していることを確認しておくといいと思います。
調停が成立すると労働審判事件は終了し、「労働審判手続期日調書(調停成立)」が作成されます。
調書における調停の合意の記載は、裁判上の和解と同一の効力を有します。したがって、調書に記載された金銭支払の約束を期限までに行わなかったような場合は、会社の預金口座等に差し押さえがなされる可能性があります。