労働審判FAQ

労働審判手続とはどういうものですか?

1 労働審判手続の概要
 労働審判手続は、裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(労働者側1名、会社側1名)で組織する労働審判委員会が、原則3回以内の期日で審理し、権利義務関係を踏まえて調停を試み、調停が成立しない場合には労働審判を行うことで労使紛争を解決しようとする手続です。
 現在、日本全国で年間3000件を超える労働審判事件が申し立てられており、申立てから80日にも満たない審理日数で、約80%の労使紛争が解決しています。

2 労働審判手続の主な特徴
(1) 労働審判手続の申立てから平均80日にも満たない審理日数で約80%の紛争が解決しています。調停が成立せず訴訟に移行した場合は時間がかかりますが、労働審判手続だけであれば、退職した社員が次の就職先を見つけるまでのわずかな期間を利用して労働審判を申し立て、それなりの金額の解決金を獲得してから転職することも可能になってきます。訴訟を提起することまでは躊躇する労働者であっても、労働審判であれば申し立ててくる可能性があります。
(2) 裁判官である労働審判官1名が、常時、期日に同席しており、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名と共に、権利義務関係を踏まえた調停を行うため、調停内容は合理的なもの(訴訟で争った場合の判決に近いもの、社内で説明がつきやすく納得しやすいもの)となりやすくなります。
(3) 労働審判手続で調停がまとまらなければ、大抵は調停案と同じような内容の労働審判が出され、労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば訴訟に移行します。調停をまとめず、労働審判に異議を出せば必ず訴訟対応が必要となるため、さらに時間とお金をかけてまで訴訟を続ける価値がある事案でなければ、調停案や労働審判の内容に多少不満があっても、労働審判手続内で話をまとめてしまった方が合理的と判断されるケースが多くなります。

3 労働審判手続の対象となる紛争
 労働審判手続の対象となる紛争は、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と使用者との間に生じた民事に関する紛争」(個別労働関係民事紛争)です。労働者と使用者との間の解雇に関する紛争、未払残業代に関する紛争、セクハラやパワハラに関する紛争等がこれに当たります。
 労働組合と使用者との間の集団的労使紛争は、個別労働関係民事紛争ではありませんので、労働審判手続の対象ではありません。ただし、組合員個々人と使用者との間の労使紛争は、労働審判手続の対象になります。
 また、「民事に関する紛争」でなければならないため、行政事件の対象となる紛争は、労働審判手続の対象とはなりません。
 募集・採用等の労働契約成立前の紛争は労働審判手続の対象になりませんが、採用内定に至っている場合は、始期付解約権留保付労働契約が成立していると評価できれば、労働審判手続の対象になります。労働契約締結の有無や労働者性に関する紛争も労働審判手続の対象になると考えられます。

4 労働審判委員会
 労働審判委員会は、裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(労働者側1名、使用者側1名)で構成されます。
 労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者の中から最高裁判所が任命し、労働審判委員会の一員として、事件関係書類を閲覧し、労働審判手続の期日に出席し、当事者の話を聴き、争点整理や証拠調べを行い、調停成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、調停成立に至らない場合は労働審判を行うなど、労働審判事件の審理全般に関与します。労働審判員は非常勤の裁判所職員であり、出身母体にかかわらず中立かつ公正な立場において職務を行うこととされています。現場の実情を踏まえた労働審判員の説得力のある意見がより妥当な結論を導くこともあり、労働審判員は労働審判手続の中で重要な役割を担っているといえます。
 労働審判手続を行う権限は労働審判委員会にあります。民事調停の場合と異なり、裁判官(労働審判官)だけで調停を行うことはできません。