労働審判FAQ

労働審判の答弁書を作成する際のポイントを教えて下さい。

1 答弁書の重要性
 労働審判手続は第1回労働審判期日までが勝負ですから、第1回労働審判期日には万全の準備をして臨みたいところです。
 第1回労働審判期日の準備における最大のポイントは、充実した答弁書の作成提出です。答弁書は、労働審判委員会の心証形成や、第1回労働審判期日の証拠調べや調停の行方に大きな影響を与えます。
 また、労働審判期日で言いたいことが言えないまま終わってしまったり、事実とは異なることを間違えて話してしまうなどの失敗を減らすためには、労働審判委員会に伝えたいことや、予想される質問に対する回答を予め答弁書に書き込んでおくことが効果的です。労働審判期日に出頭する会社関係者は、労働審判手続に不慣れなことが多いため、労働審判期日で緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちですが、答弁書に記載してあれば質問されないことが多いですし、打合せを重ねて作成した答弁書に記載されている内容であれば、質問されても容易に答えることができるはずです。
 弁護士に労働審判の対応を依頼したら、充実した答弁書の作成・提出に全力を尽くしましょう。

2 答弁書の記載事項
 答弁書の記載事項は、次のとおりです。
(1) 申立書の趣旨に対する答弁
(2) 労働審判手続の申立書に記載された事実に対する認否
(3) 答弁を理由づける具体的な事実
(4) 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
(5) 予想される争点ごとの証拠
(6) 当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯の概要

3 答弁書のページ数
 労働審判の対応において答弁書の果たす役割は極めて重要であり、答弁書を読んだだけで会社側の主張が分かるようにしておく必要がありますが、ページ数が不必要に多くなっていないかについても十分に検討する必要があります。同じ価値の情報を伝えるのであれば、ページ数の少ない答弁書の方が、労働審判官、労働審判員に言いたいことが伝わりやすく、優れているといえます。
 望ましい答弁書本文のページ数は、事案の内容により異なってきますが、労働審判手続での解決になじむ事案であれば、長くて30頁以内、できたら20頁以内でまとめておきたいところです。

4 答弁書の提出期限
 答弁書の提出期限は裁判所によって異なりますが、概ね第1回労働審判期日の1週間前から10日前に設定されます。提出期限までに答弁書を提出することができず、第1回労働審判期日間際になって答弁書を提出した場合、第1回労働審判期日までに労働審判官、労働審判員が答弁書の主張内容を検討する時間が十分に取れませんので、会社側の主張を理解してもらいにくくなります。特に2名の労働審判員については、答弁書提出から答弁書が手元に届くまで2日程度かかる可能性があることも考慮しなければなりません。
 労働審判事件の多くは、第1回労働審判期日で証拠調べを終え、調停が試みられますので、第1回労働審判期日までに会社側の主張を理解してもらえないと、会社側に不利な事実認定と法的評価を前提とした調停が試みられ、会社側に不利な結果に終わるリスクが高くなります。したがって、答弁書提出期限までに答弁書を完成させて提出できるよう、全力を尽くすべきこととなります。
 では、答弁書提出期限間近な時期、あるいは答弁書提出期限経過後に弁護士に依頼したような場合で、答弁書を提出期限までに提出することができない場合、どのように対応すればいいのでしょうか。答弁書を提出期限までに提出しないと、会社の主張が十分に理解してもらえず、不利な結果に終わりやすくなりますから、答弁書の提出期限が遵守できない場合であっても、1日も早く提出できるよう全力を尽くすべきことは言うまでもありません。もっとも、急いで答弁書を作成して提出しようにも、提出できない場合があるかもしれません。答弁書の提出ができなければそのまま第1回労働審判期日が空転してしまいます。そのような場合は、第1回労働審判期日の変更と併せて答弁書提出期限を変更してもらうことも考えられると思いますので、裁判所に相談してみるとよいでしょう。